片柳すすむ

かたやなぎ 進
衆院神奈川10区 国政対策委員長(前川崎市議会議員)
市議会傍聴レポート(議会活動報告)

航空機によるコンビナート事故の「被害想定」すらせずに、新ルート開始は許されない

2020年3月4日

3月3日の日本共産党代表質問(宗田裕之団長)の中の「羽田新飛行ルート」問題での質問と答弁をまとめました。

(正式な議事録ではありません。今後議会から発表される公式のものをご参照ください)

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殿町3丁目を飛行する航空機(実機飛行確認時)

無題

石油コンビナート地域(日本冶金・日本ゼオン・旭化成付近)を飛行する航空機(同)

【初回質問】

羽田新飛行ルートについてです。

従来からある「川崎市臨海部防災対策計画」は、地震によるコンビナートの爆発・漏洩などの際の被害を想定し、避難対象地域や人数などを具体的に示しています。例えば、水江町の高圧プロパンガスタンクが昼間に大規模爆発を起こした場合には「放射熱や爆風圧、破裂したタンクの破片の飛散」のため、川崎区全域と幸区の一部まで26万8544人の住民が屋内避難を余儀なくされる、と想定されています。

一方で、今後の航空機事故の対応基準とされる『東京国際空港緊急計画』では、市域陸上部での事故の場合には川崎市消防局が「指揮本部、救護所等及び緊急指揮所の設置」や「消火救難活動」「搭乗者の救助及び避難誘導」などを行うこととされていますが、コンビナートでの航空機事故の被害想定は記載されていません。また1月21日に、国土交通省航空局に対し、被害想定を行っているのか聞いたところ、「墜落や落下物による死傷者や延焼地域等の想定は持ち合わせていない」と答えました。航空機によるコンビナート事故の被害想定もないのに、市長はどのように消火救難活動や避難誘導を行い、どう避難地域を定めて市民に避難を呼びかけるのでしょうか。市長は、国に対し航空機事故の際の被害想定を示すよう強く求めるとともに、それに応じた災害対策計画を市民に対して示すべきですが伺います。国が被害想定すら示せないのなら新飛行ルートの差し止めを求めるべきです。伺います。

「コンビナート上空飛行の原則禁止」の通知について、私たちが昨年の9月議会で「市が通知の立場を転換するなら、市民と議会に対し説明するべきだ」と質問したのに対し、市長は「議会に対し適宜報告する」「市民には国が丁寧に説明するべき」と答弁されました。しかし昨年末、政府は通知の廃止を一方的に発表し、市は議員に対してそれを事後的に報告しただけでした。この通知は、1960年代の市民の声を元に市議会が全会一致で「本市臨海工業地帯上空を即時飛行禁止に」と意見書をあげ、当時の市長が国に要望してつくられたもので、国と今の市長の一存で勝手に変えていいはずがありません。国から川崎市に対しいつ通知廃止の打診があったのか、また市長はどの様な理由で、いつそれを認めてしまったのか、伺います。

【市長の答弁】

羽田新飛行ルートについての御質問でございますが、はじめに、国士交通省東京航空局東京空港事務所が策定しております「東京国際空港緊急計画」では、空港周辺における航空機事故が発生した場合、警察、消防、医療等の関係機関は「東京国際空港緊急計画」によるほか、地域防災計画等に基づき対処するものと定められております。

本市といたしましては、東京空港事務所に対しまして、実際の災害時におけるオペレーションの確認や実効的な図上訓練を要望しているところでございます。

次に、羽田空港の機能強化につきましては、これまで国に対し、コンビナート上空飛行に関する安全対策や防災力の確保・向上などの対応を求めてまいりました。

国からは、昨年8月の国の協議会において、飛行制限に係る運用上の見直しをすることが、示されたものでございます。

それを受け、昨年10月、安全対策や事故・災害時の対応強化について、改めて国に対して要望し、国からは責任を持って対応することを確認したものでございます。

【再質問】

羽田新飛行ルートについてです。

このコンビナート上空の飛行禁止を求めた通知は市民と議会が全会一致で求め、当時の市長も運動した結果できた重いものです。1970年11月6日、東京航空局長から東京国際空港長に本通知を発するのと同時に、川崎市長にも「川崎石油コンビナート地域上空の飛行を制限するよう、東京国際空港長に対し、別添写の通り指示したのでご了知下さい」との文書が送られているのです。それなのに結局、国による通知の廃止に対して市長は、まともに反論することなく「国が責任を持って対応することを確認した」といって、認めてしまったということになります。しかも「東京国際空港緊急計画」にはコンビナートで航空機事故が起きた際の被害の想定はなく、対処方策についても全く何も記載されていません。国の責任で被害想定すら示していないのに、どうして「国が責任をもって対応することを確認した」などと言えるのでしょうか。2月25日の衆議院予算委員会で、わが党の議員が「災害対策基本法に基づく国の防災基本計画にある『石油コンビナート対策等』は航空機の墜落等を想定しているのか」と質問したのに対し、内閣府は「航空機の墜落等、大規模な事故を原因とするものも含みうる」と答えています。

「国が責任を持って対応することを確認した」のであれば、市長が先頭に立ち、市民の命とコンビナート労働者の安全を守るために、国の責任で被害想定を示すとともに、防災基本計画にその対処方法等を示すよう求めるべきですが、市長に伺います。また示された被害想定などの内容を市民に示して、市民に新飛行ルートの是非の判断を仰ぐべきですが、市長に伺います。

【市長の答弁(再質問)】

羽田新飛行ルートについての御質問でございますが、飛行制限の見直しに伴う防災対策上の対応としまして、空港管理者である東京空港事務所に対し、災害予防等に関する情報交換、事故・災害時の具体的な対処方策に関わるオペレーションの確認や実効的な図上訓練に加え、より一層の連携体制の強化を図るよう要望しております。

羽田空港の機能強化につきましては、国の責任において進められておりますが、引き続き、安全対策や防災力の一層の強化を求めるとともに、要望に関する国の対応状況を確認してまいります。

【再々質問】

羽田新飛行ルートについてです。

初回の質問でも、再質問でも、国に対して被害想定を示すよう求めるように質問しましたが正面から答弁されず、またその内容を市民に示して判断を仰ぐように求めましたが、そのことについても答弁がありませんでした。

臨海部防災対策計画では、大地震の際にコンビナートが高圧ガスタンクの爆発や製造施設が暴走を起こす確率を「1万年に1度」と見込み、その被害の想定を市民に示しています。航空機の事故の多い“着陸前の8分間”と“離陸直後の3分間”をあわせて「魔の11分間」と言われています。羽田新飛行ルートの南側離陸では航空機が約3分後に東扇島の南端まで到達することになります。つまり最も危険な3分間がコンビナートの真上を飛ぶことになるということです。2018年度に起きた部品欠落は全国で489件、バードストライクも羽田空港で157件起きています。航空機がコンビナート地域で事故を起こす頻度は「1万年に1度」よりも低いと考えているのか、市長に伺います。

災害対策において、ハザードマップなどで災害の可能性や被害の想定を市民に示すのは、災害対策の基本です。臨海部防災対策計画では、大地震の際にコンビナートが大規模災害を起こした際の被害想定を行っており、本市も計画自体をウェブサイトで市民に公開しています。一方でコンビナートでの航空機事故の対応基準となる「東京国際空港緊急計画」は、市民に公開されていません。これでどうして「国が責任を持って対応することを確認した」などと言えるのでしょうか。市長に伺います。

50年前にコンビナート周辺の安全を求める市民と議会の後押しを受けて、市長が国に求めて結ばれたのが「上空飛行禁止」の通知です。それが廃止されたのですから、それにかわる市民の安全の担保を市長が取るのが当然です。しかし、市長は「国が責任を持って対応することを確認した」と言いながら、国に正面から大規模災害のリスクを示すように求めず、市民にその危険性を知らせて判断を仰ごうとしていません。こうした姿勢をあらためて、市民が新飛行ルートによる事故の危険性を知ることができるよう、国に正面から被害想定やその対策計画を求めるべきであり、それが示されるまでは新飛行ルートを差し止めるよう求めるべきですが、市長に伺います。

【市長の答弁(再々質問)】

羽田新飛行ルートについての御質問でございますが、石油コンビナート地域における大地震時の事故・災害と航空機に関する事故の頻度につきましては、これらを単純に比較することはできないものと考えております。

また、「東京国際空港緊急念十画」につきましては、実際の発災時の対応確認や連携強化も図っているところでありまして、本市臨海部防災対策計画への反映につきましても要望しているところでございます。

本市といたしましては、機能強化の必要性を認識しており、引き続き、安全性に関する国の対応状況を、しっかりと確認してまいります。

【最終意見】

最後の意見を述べます。

羽田新飛行ルートについてです。

地震によるコンビナートでの大規模災害の発生を「1万年に1度」と見込んで被害想定を行っているのに、それよりも頻度が高いことが明らかな航空機事故の場合の被害想定をなぜ行わないのか、という質問に「単純に比較できない」という答弁でした。

国土交通省の外局である運輸安全委員会のウェブサイトで公開されている航空機事故のうち、「墜落、不時着、不時着水、衝突」を原因とするものは直近5年間で26件に上ります。川崎市側・コンビナートへの離陸が行われる南風の日は年間の約4割と国交省も述べていますから、1日60便が年間約150日、毎年約9千便が離陸していくことになります。これまで川崎市にも国交省にも事故の可能性について聞きましたが「ゼロにすることはできない」と答えてきました。「単純に比較できない」などと言いますが「1万年に1度」どころか、コンビナート上空での事故が起こり得ることは明らかです。

コンビナートの工場は、上空からの落下物など想定した構造になっていません。墜落事故が起これば耐えられるはずもなく、大事故に直結します。「単純に比較できない」と責任を回避するのではなく、航空機事故によるコンビナート災害への対応を、国に厳しく迫るべきです。

また答弁では「国に責任を持って対応することを確認した」「臨海部防災対策計画への反映について要望した」とのことでしたが、これまでの国との交渉のなかで航空機事故時の被害想定を確認せずに「上空飛行原則禁止」の通知の廃止を了解したということになります。3月29日の新飛行ルート運用開始までに、国に被害想定を示すよう強く求め臨海部防災対策計画に反映するように要望します。

繰り返し、国に被害想定を行わせたうえで、市民に対して新飛行ルート実行に伴う事故のリスクを説明する責任を果たすように求めてきましたが、最後まで市民に対して責任を取ろうとする答弁はありませんでした。

実機飛行確認を体験した地域に長く住む方からは、「かつて海苔漁を営んでいたが工場の進出で辞めることになった。そのあとは工場からの公害も我慢してきた。川崎市の発展のためと思って来たのにどこまで我慢させるのか。飛行機は飛ばさないでほしい」との声が寄せられています。

災害のリスクを市民に広く知らせて市民も災害に備えることができるようにするのが、災害対策の基本ではないでしょうか。50年前の市民と議会に対する約束を事前に断りもなく反故にしたうえ、市民にコンビナート災害の危険性が示されないまま、新飛行ルートの運用を開始することは許されません。市民とコンビナート労働者の命と安全を守るために、新飛行ルートの差し止めを国に求めるよう要望します。

片柳すすむ

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